「ラブストーリーではない」ラブコメ!?
文化系男子の悲喜劇から、笑いと元気をもらおう!
クルーのみんな、調子はどうだい?
ようやく日差しも春めいてきて、冬物のジャケットなんかをしまい始めているであろう今日この頃、みんなは元気に過ごしているかな?
衣替えの季節といえど、漁師たるもの、セーターだけはまだ押し入れにしまっちゃいけないもんだ。洋上に出れば当然寒いし、街にいても夜になれば随分冷え込む。
いつだったか俺も若い頃、日中随分暖かかったもんだから、薄着で行きつけのバーに飲みに行ったんだ。行きは良かったものの、閉店時間、バーを出る頃には息が白くなるくらいの気温!
あちゃーなんて言って、ガタガタ震えていたんだ。
すると、同じタイミングで出てきた常連のおっちゃんが、セーターを貸してくれたんだ。
「にいちゃん随分寒そうじゃねぇか、これでも着なさいや」っつってな。
お互い常連だったが、話したこともなかったおっちゃん。
それが、寒そうにしている俺の姿をみてかわいそうに思ってくれたんだろうな。
そのセーターの温もりはおっちゃんの優しさの温もりだったんだろう。
セーターに宿ったダンディなおっちゃんの体臭に包まれつつ、俺は帰路についたんだ。
それ以来、この季節に飲みに行く時には必ずセーターを一枚携えて行くことにしているよ。
なんて思い出話は置いといて、今日も俺の好きな映画の紹介をしよう。
前回がホラーだったので、今回は打って変わって、ラブコメで行こう!
今回紹介する作品は「(500日)のサマー」(2009、米)だ。
監督は「アメイジングスパイダーマン」シリーズのマーク・ウェッブ。
(ウェッブ氏、「君の名は」のリメイクもする予定だそうだ。)
出演は「スノーデン」や「ドン・ジョン」のジョセフ・ゴードン=レヴィットくん、
そしてミュージシャンとしても知られるズーイー・デシャネルとなっている。
あらすじ
現代LA。グリーティングカード会社に勤める青年のトムは、途中入社してきた女の子のサマーに一目惚れする。2人は付き合うものの、やがてすれ違いから失恋。トムは失意に沈んでいく…
↑予告(日本語)
デイブ的イイねポイント①凝った編集に注目!
この映画は、500日間に起きた出来事を描いている。
この500日間の間に、トムはサマーと出会い、付き合い、フラれ、ヘコんでいく。
そしてこの500日を、単純に時系列の順で見せないところがこの映画の面白いところ。
つまり500日間を、細かく分解し、シャッフルして見せてくれるのだ。
例えば「2日目のあとは、176日目をどうぞ。その次はずいぶん浮かれている64日目ですが、その直後に386日目の惨状をご覧ください笑」と言った感じだ。
このように時間軸をシャッフルした映画は「現金に体を張れ」「レザボア・ドッグス」「メメント」など色々あるが、あるカップルの失恋までを描いたものという意味で「アニー・ホール」の系譜にもあるのかな。
ただ、この手法をロマンティックコメディ映画に当てはめることのメリットとして、「前はいっしょにイケアを歩くだけでもあんなに楽しかったのに、今は全く同じことをしていても全然盛り上がらないんですが!」的な状況を、スマートかつユーモラスに見せやすいという点があるのかもしれないな。
デイブ的イイねポイント②ディテールに共感!?"文化系男子あるある”を笑い飛ばせ!
トムは、ビートルズやスミスといったUKロックを中心としたポップカルチャーを愛する、文化系の青年だ。
そんなトムがサマーに惚れてしまったきっかけは、音楽の趣味が近いということ。
それは4日目の出来事。
トムがヘッドホンでthe smithsを聴きながらエレベーターに乗っていると、サマーが乗り込んでくる。
トムのヘッドホンから漏れ聞こえてくる音楽に気づいたサマー。
トムの耳もとへ顔を近づけて話しかける。
「ねぇ、私もthe smiths好きよ。フーン♪フーン♪…その曲最高よね」
そう言ってエレベーターを降りるサマー。
唖然とするトムは思わずつぶやく「まじか…」。
「…おいおい、カワイイと思ってたあの子が僕の趣味をわかってくれたよ!」
それ以来サマーが気になってしょうがないトム。
職場で自分のパソコンからこれ見よがしにthe smithsをかけてみたりする…。
文化系の男子としては「カワイイと思ってたあの子、俺と音楽の趣味が一緒じゃん!」というだけで、もうやばいもんだ。
とりわけ幼少期に映画「卒業」を若干履き違えて解釈し、運命の恋を信じるようになってしまった乙女のような青年トムだもんだから、「運命の相手だ!」となってしまう。
このように、「ルックス的なとこやセックスアピール的な側面だけではなく、趣味の側面から惚れてしまう文化系男子の恋愛映画」ということで、この映画は独自のカラーをまとった恋愛映画に仕上がっているな。
こうしてサマーにベタ惚れしてしまったトム。
「恋に盲目になってしまった文化系男子あるある」的な行為をちょこちょこ繰り返すのも、「わかるけどイタい!」と感じつつ、笑えるところだ。
例えば、このシーン(下動画の1:00くらいより)
レコードショップでデート中。
自身のお気に入りのUKのバンドSpearmintについて語るトム。
「悲しいよなぁ、世の中の大半がスペアミントのことを知らないなんてさ」
「あたしも知らないわよ」
「え、僕がこの間あげたミックステープに入れといたじゃん…。しかも一曲目…」
「あぁそうだっけ…」
「…。」
自分の思い入れあるCDを女の子に聴かせても、同じように好きになってくれる可能性は低い(というかCD貸しても聞いてくれない)ということは身にしみてわかっているはずなのに嗚呼、なぜ俺たちボンクラ男子はこの行為をやってしまうのか!!
きっといまもどこかの中学生(心が永遠に中学生な大人も含む)が、「俺のオススメ曲で作ったspotifyプレイリストのリンク送るから、是非聴いて!」なんてLINEをしていることだろう…、幸あれ!
そして特に文化系男子のボンクラさを映像的に表現したアイコン的なシーンは、35日目!
「やっと彼女と結ばれた!嬉しすぎて全てが肯定的に思えるよぅ!」という心象を描いた名シークエンスだ。
トムが初めてサマーと夜を共にした翌朝。
喜びを抑えきれないトムは、出勤する間も、ホール&オーツの「You Make My Dreams」に乗せてウキウキ歩き始める。すると・・・
わお、鏡に映る俺ってハリソン・フォードみたいじゃん、サイコー!
あれ、街のみんなも踊り出すよ!
最後は幸せのブルーバードも(アニメだけど)飛んできてヒャッホー!
音楽を効果的に使ったこういったシーンは、さすがミュージックビデオ出身監督でもあるマーク・ウェッブ、てなところかもしれないな。
ちなみに「文化系男子が恋でテンション上がってもうた」状態を、ポップソングに乗せた街中での突然のダンスシーンで表現しているところなんかは、後に大根監督が手掛けた「モテキ」にも通じていく表現だな。
ちなみに、めちゃ落ち込んでるバージョンもあるよ!DVDの特典映像のみに収録されているやーつだ。
すれ違う人みんなが感じ悪くなってるのがウケるね!
デイブ的イイねポイント③実は深いテーマ「これはラブストーリーじゃない」!
この映画は冒頭のナレーションで、「This is not a Love Story.」と語られる。
どういうことかというと…。
俺が思うに、「恋に落ちるとこから関係の成就まで」を描くのがよくある「ラブストーリー」だとしたら、この作品の場合はその先を含む悲喜こもごもを描いているから「ラブストーリーではない」んだよ、ってとこなんではなかろうか。
成就したはいいものの、関係が悪化し、別れて、落ち込んで、そして…、というとこまで通した全部をひっくるめてが、トムにとっての、サマーとの「ストーリー」ってことなんだろう。
そして、この映画の主人公はあくまでトムなので、全編がトム視点で展開していく。
なので、観客も抱くであろう「サマーがツレなくなってしまった理由・キッカケはなんだろう?」という問いに対して、明確な答えは描かれていない。
なぜならそこはトムもよくわかっていないから!
そしてそこがこの映画のメインテーマではないのだ。
【まぁおそらくは「サマーはそもそもずっと愛し合うカップルになるつもりなどなかった、一時的な付き合いのつもりだった」といったとこだろう。それに対しトムは、完全に一目惚れしてしまっており、いわゆる「恋は盲目」状態、サマーの気持ちは見えなくなっていた…、要はひとりよがりすぎたんだろうな。というか冒頭から実はヒントがあったんだよな、「トムは恋に恋する少年だったが、サマーは両親の離婚以来、永遠の愛を信じない女だった」ていう。】
サマーとの「ストーリー」が、トムの人生にとってのブレイクスルーとなる。
トムは、サマーにフラれるまでは、恋愛映画やロマンチックなポップソングの作り出す幻想だけを追い求めていた。要は、恋に恋する夢みがち、コドモ大人だったわけだ。
ところが、サマーとの失恋経験で、生活が破綻しかけるほどのどん底まで落ち込んでしまう。そこから「俺ってホントは何を求めるべきなのかな」と、新たな人生を模索し、自分の本当にしたかったことへ挑戦するきっかけをつかむこととなるのだ。
つまり、この映画の主眼は「サマーと付き合えて幸せ!めでたしめでたし」とかではなく、
「最高の理想の相手のはずだったサマーとの苦い経験をすることで、トムが一歩成長するんだよ」ってことなんだ。ここがよくある「ラブストーリー」と、この映画が一線を画すとこなのかもしれないな。
このお話は、脚本家自身の失恋経験をベースとしているそうだ(映画の冒頭に「ジェニーへ。この映画はお前とのことなんだよ、ビッチめ!」と字幕が出てくるくらい!)。
そのおかげか、友達の失恋話を聞かされつつ、追体験するような感覚を観客に抱かせる質感の作品となっている。追体験といっても、実際はツラそうなことでもユーモアたっぷりに描いてくれるから、失恋話でも最後まで楽しく観られる。
それでいてエンディングには希望のもてるオチ(思わず「ウマいこと言うね!」と膝を打ちたくなるぞ)もちゃんとあるし…。
失恋直後の文化系男子は、この映画をみることで「あぁ俺もこんなツラい目にあったけど、こうして振り返れば笑えるじゃん!そして次があるじゃん!」とばかりに、ちょっとしたセラピーになるかもしれないな!非常薬のように備えておいてもいいんではなかろうか笑
ということで、いかがだったかな?
俺は実は恋愛映画もけっこう見る方なので(「ラブ・アクチュアリー」や「ラブソングができるまで」とかも普通にファン!)、今後ともこういった作品も紹介していきたいものだな!
それでは今日はこの辺で筆を置くとしよう。
Be Excellent to Each Other!
(余談)
俺はこの映画で一番感動するのは、実はオープニングクレジットのシーンなんだ。
子供の成長をホームビデオ映像で見せられるのって、なぜか個人的にすごく泣けるツボで…。
流れているRegina SpektorのUsという曲がさらに引き立ててくれるし。
2:29〜あたりのファルセットのとこでぐ~っときてしまうんだよなぁ。
このツボを共感してくれる人はなかなかいないのだが笑
あと、サマー役のズーイー・デシャネルは、若い頃にオフスプリングのビデオに出ているぞ!90年代後半っぽ~いコーディネイトと赤いウィッグが可愛いね
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